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フロイントグループ創業からの知識の海

【共同開発事例】協同乳業 × フロイント産業による大腸送達アルギニン錠 機能性食品原料 2022.02.04

いつもFREUND KNOWLEDGE OCEANをご覧頂き誠にありがとうございます。
フロイント産業広報担当の丸山です。

突然ですが、皆さんは”ポリアミン”という物質をご存知でしょうか?

今回は、健康寿命の延伸に向けた取り組みとして、ポリアミンの可能性について研究を行っていらっしゃる協同乳業株式会社様と、大腸送達性製剤化技術を持っている当社フロイント産業による、大腸送達錠剤の共同開発についてのお話をインタビュー形式でお届けします。

1953年創業。"乳の価値"を伝えていくこと。をミッションに乳製品の製造・販売を行う。
高齢社会における新たな価値訴求として、健康寿命延伸の実現に向けた研究に取り組む。

この記事の登場人物

(左から)
フロイント産業株式会社 広報担当 丸山
協同乳業株式会社 主幹研究員 松本先生
フロイント産業株式会社 営業担当 能戸
フロイント産業株式会社 開発担当 森本

丸山:それでは松本先生、よろしくお願いいたします。
2社による大腸送達錠剤の共同開発について、まず初めにポリアミンとはいったいどのような物質なのでしょうか?

松本先生:よろしくお願いいたします。
ポリアミンは非常に多くの生理機能があり説明が難しいのですが、ひとことで言うならば『細胞の健全さを維持する物質』 という表現が最適ではないかと思います。

丸山:細胞の健全さを維持する物質…。もう少し詳細に教えて頂けますでしょうか。

松本先生:はい。ポリアミンとは、「プトレッシン」「スペルミジン」「スペルミン」などの総称で、全生物種の細胞に含まれており、細胞の成長や増殖をはじめ、細胞の生命活動に関与している物質です。
すなわち、ポリアミンは細胞の状態を正常に保ち、生命活動を維持するのに欠くことのできない重要な存在です。しかし、ポリアミンをつくる能力および、臓器・組織中の濃度は、生体の成長後は加齢とともに低下してしまいます。

丸山:生命活動を維持するのに不可欠な物質... そんなに重要なものなのですね!
ただ、当社と共同開発したものは”アルギニン”の錠剤ですが、ポリアミンとアルギニンにはどのような関係性があるのでしょうか?

松本先生:アルギニンはアミノ酸の一種で、腸内細菌を利用してポリアミンを増やす事を目的に研究した結果、その有用性を見出しました。

腸内細菌叢の作るポリアミンの量には大きな個体差がある事がわかり、ポリアミンが多い人の便には腸内細菌がポリアミンを生成するための何かがあると仮定し、研究をいたしました。
糞便を詳細に分析した結果、検出された約200種の成分の中から、便中のポリアミン濃度と正の相関を示した物質を探索しました。さらに、「食品」という観点で考えたときに、現実的な価格で安全である事など条件を絞り、実験を重ねていったところ、アルギニンが最適な物質という結論に至りました。

先ほど申し上げた通り、体内のポリアミン濃度は老化と共に低下してしまいます。
しかし、自分の体内で作るポリアミン(内因性ポリアミン)が減った分を生体外から摂取(外因性ポリアミン)すれば補充ができます。
ポリアミンを多く含む食品を摂る事も手段の1つですが、それは一過性のものです。
一方、腸内細菌にポリアミンを作らせる事ができれば、継続的に生体内に供給できます。
つまり、腸内細菌によるポリアミン生合成を促進する成分を摂る事が有用であり、その成分こそアルギニンなのです。

丸山:アルギニンを経口摂取する事で、ポリアミンを効率よく生成する事ができるのですね。
では、松本先生がポリアミンについて研究をはじめたきっかけについて教えてください。

松本先生:特定保健用食品を開発するにあたり、理化学研究所に腸内細菌を培養する技術を習いに行った事がきっかけで、そこから腸内細菌・環境の研究を始めました。ヨーグルトの開発として着手したのがスタートです。
専門用語で腸内細菌の代謝産物(産生物)と言いますが、これらが腸から吸収される事で健康維持あるいは病気に関わっているのではないか? と考え、この働きを調べる研究を行いました。

また、別研究として乳(ミルク)の価値を高める研究も行っていました。こちらの研究で、母乳に含まれる良いものを調査している中で、”ポリアミン”というワードがぽつぽつと出てきた事が、着目のきっかけとなりました。
ミルク中では、ポリアミンは分娩直後からしばらくの間に濃度が高くなる物質である事が知られています。人間の場合、分娩してから1ヶ月~1ヶ月半程度、マウスの場合は数日程度の期間で高濃度に分泌され、赤ちゃんの腸管の成熟を促す役割がある事が1980~90年代に報告されていました。この事から、ポリアミンが腸にとって良い物質であると着目し、便中のポリアミン濃度の測定を開始しました。私が初めて糞便中のポリアミンについて国際科学ジャーナルに書いたのは2001年の事でした。

しかし、ポリアミンは細胞を増殖させる因子であるため、がん細胞においては自ら多量に生成して増殖する事が知られています。がんの研究では、がんの増殖を防ぐために薬剤でポリアミンの生成を抑制し、がんを縮小させる、という研究結果があります。この事から、ポリアミンは悪いものであるという定説がアメリカを中心として広まっていたため、我々が研究を進めるにあたりとても苦労しました。

森本:ポリアミンは悪いものである、という考えがあったのですね。
その定説は覆ったのでしょうか?

松本:現在では、ポリアミン研究においては、健常な細胞とがん細胞の2つの軸を設けて考える事を前提とするようになりました。この10年間で、我々のグループ以外にもポリアミンの健康促進効果を主張するグループが沢山出てきて、多くの研究結果が発表された事から、ポリアミン=悪いものと頭ごなしに否定する考え方をする研究者は居なくなりました。
現在ではポリアミンが健康に良いと主張する論文の方が圧倒的に多くなったと思います。

丸山:それでは、当社との共同研究について伺います。ファーストコンタクトから、どのように研究が進められたのでしょうか?

能戸:松本先生の講演会の話を仲間から聞いた事が始まりでした。ポリアミンとアルギニンの関係についての発表の中で、アルギニンを如何にして直接大腸まで届けるかが課題になっていると仰っていたそうで、弊社(フロイント産業)では大腸崩壊性基剤のキトコートとその他耐酸性基剤を組み合わせる事での大腸送達技術を持っていたものですから、お話を伺ったときに「紹介してみよう!」と思いました。

早速コンタクトを取り、キトコートのパンフレットをお渡しして、後日松本先生からご連絡を頂いた、というのがファーストコンタクトでした。

松本先生:ポリアミンを効率よく生成するためには、アルギニンを腸内細菌が棲息する大腸まで送達させる必要がありました。当時、経口アルギニン製品をいくつか試作していましたが、なかなか実用的なものではありませんでした。その点、キトコートが解決策となるのではないかと思い、コンタクトを取り、色々とやり取りをさせて頂く事になりました。

丸山:当社のソリューションが丁度ニーズにハマったのですね。その後の開発はどのように進んでいったのでしょうか?

森本:能戸のアプローチの翌年には処方検討を開始しました。予備検討を含めかれこれ10回くらいは試作品をお出ししたかと思います。当時既に、胃で溶けず小腸で溶けるようにする技術や、更には小腸でも溶けずに大腸で溶けるようにする技術は、キトコート開発にあたって当然持ち合わせていましたが、当社内では比較的難易度の低いカプセルでの検討例が多く存在していました。

錠剤となると中の成分にも左右される事があります。基材の組成によって溶け具合が違う事もあり、毎回試行錯誤をしていく必要がありました。溶け具合の微調整で、良さそうなものができたと思えば、今度は錠剤が便中まで直通してしまうなんてこともあり(笑)
それでも最終的にはなんとか試験をクリアするまでにこぎつけました。

丸山:直通してしまう事もあるのですか!! アルギニン錠剤の大腸送達を達成するのは難易度が高いのですね。
それでは、皆さんそれぞれの目線で、開発中に苦労された点はどこでしょうか?

松本先生:コーティングに使われる成分の名前1つとってみてもそうですが、フロイント産業の技術に対しての知識がないところが、初めに苦労したところでした。
また、In vitro(試験管内試験)での工程を突破した試作品を出して頂きましたが、私からすると、試験管とリアルな胃や腸では当然環境が違うので、そんなもので上手くいくのか?といった疑問があったのも覚えています。

また、実際に摂取し、排出された便を貰って検査するIn vivo(生体内試験)は、
当社(協同乳業)社員の協力の下成り立っている試験のため、試験の度に協力と同意を求めるのがかなり苦しかったです。
もちろん、試験結果についても最初から上手くいった訳ではなく、なかなかポリアミンが増えなかったり、錠剤が便中まで直通してしまったりと難しい状況もありました。

能戸:お話に出た、直通が起こってしまう事例が苦労した点ですね。直通をいかに減らして、確実に大腸内で崩壊させるかが一番の課題でした。もし仮に販売開始後の製品で直通が起こってしまった場合、クレームに直結する可能性がありますから。それだけは避けたいという気持ちを、販売側の目線では常に持っていました。

森本:私も同じく、処方検討のフェーズが一番苦労しました。コーティング基剤の組み合わせを変えたり、コーティング層を増やしてみたり、減らしてみたり、沢山トライアルを行いました。
製品化に向けての時間軸も決められた中での開発でしたので、一番苦労した期間だったと思います。

丸山:ありがとうございます。その後無事に製剤化が完了し、スケールアップを行い商用生産が開始されたとの事ですが、製品化した際はどのようなお気持ちでしたか?

松本先生:ホッとしましたね。研究だけでなく、同僚に協力してもらって試験をしていたので、頼むのも辛いという気持ちがありましたが、それも一段落したのも良かったです。
また、今回の開発を経て技術として確立できたので、依頼すればプラセボ用の錠剤も、試験用の錠剤も作ってもらえる環境になったという事は、とても安心感のある事だと思います。新しいヨーグルトの開発や、それ以外の実験でも、とりあえず錠剤で試してデータ取りをしてから臨む事ができる点が非常に良かったと思います。

丸山:無事に製品化されたところまでを伺ってきましたが、今後はどのような研究をされていくご予定なのでしょうか?

松本先生:現在、アルギニンを利用してポリアミンを増やす事で、動脈硬化を予防するという研究を進めています。当社ではヨーグルトでこの研究を進めており、機能性表示食品として、現在(消費者庁へ)届出中です。

動脈硬化予防を謳うこれまでの機能性飲食品は、食事由来コレステロールや中性脂肪を吸着して、体外に捨てる事で予防を図るメカニズムでした。いわゆる「脂肪の吸収を抑える」という文言のものです。
一方、ポリアミンの場合は、直接血管の細胞(血管内皮細胞など)に吸収され、その細胞の内部から作用して健常状態を維持するので、今までとは違ったメカニズムで予防する事ができると考えています。つまり、血管に直接作用する予防法となるのです。
また、認知機能の低下をどう予防するかについても研究をしています。脳神経細胞もポリアミンは必須の物質ですから、積極的に進めていきたいと思っています。

森本:ポリアミンで血管や脳にまでアプローチが出来るのですね。
改めて、腸内環境において菌が数多くある中で、アルギニンによるポリアミンの生合成機構を見つけるのは本当に大変な事だったと思います。

松本先生:はい。結論としましては、腸内細菌の多様性が重要で、アルギニンからポリアミンまでの数段階ある物質変換が、様々な腸内細菌を介して行われている事を見出しました。さらに、そのためのスイッチも必要で、それをビフィズス菌などが担っていることを発見しました。
そのスイッチがビフィズス菌等の作る酸です。

実はいくらアルギニンとビフィズス菌を摂取しても、抗生物質を飲んでいる人には効果がなく、ポリアミンが増えないのです。
抗生物質により腸内細菌の多様性が無くなっているため、本来アルギニンからポリアミンを作るための歯車となる菌が欠落している状態になってしまうのです。いくら摂取をして生成を促そうとしても効果がありません。そのため、この腸内細菌の多様性をいかに維持できるかという事も課題になってくると考えています。

森本:今後、腸内をデザインしていくみたいな話が出てくるのかもしれませんね。
腸内の状態を評価するツールなりデバイスができ、それぞれ個人別に腸内環境をテーラーメイドするような時代がいずれは来るのでしょうか?

松本先生:腸内細菌を調べる企業が近年増えてきています。この人はこういう病気になりやすい、等のコメントを提供するような話はよく耳にしますね。
ただ、現状は、腸内細菌叢を調べて既存のデータと比較しているに過ぎません。そもそもヒト腸内の70%程度の菌種は培養すらできておりませんので、腸内細菌叢を自在にコントロール出来るまでになるのはまだまだ難しく、テーラーメイドする時代はもう少し先になると思います。
一方で、プロバイオティクス、プレバイオティクス、それらを合わせたシンバイオティクスの研究は進んでおり、アルギニン錠剤とビフィズス菌の併用摂取もこのシンバイオティクスの最先端の研究成果になります。これらの研究から、理想の腸内環境作りが可能になるヒントが見つかると期待しています。

丸山:それほど今後の広がりが期待される世界なのですね。今まで触れた事の無い世界だったので、とても興味深いお話でした。今後も当社から何らかの形で技術的な協力が出来れば良いなと思います。
本日は貴重なお話を聞かせて頂きありがとうございました。

ポリアミンは細胞の健全さを維持するのに役立つ物質であり、アルギニンは腸内細菌のポリアミン産生を誘導するアミノ酸の一種です。
体内のポリアミン濃度は加齢とともに低下しますが、アルギニンを大腸まで届けて、腸内細菌にポリアミンを作らせることで、体内にポリアミンを継続的に補う事が出来ます。
アルギニンを大腸まで送達させる事は難しいことですが、当社の持つコーティング基剤や製剤化技術を併せた大腸送達技術をもって、松本先生と共同開発に取り組む運びとなりました。

出来上がった商品が、必要とされている方々のお手元に届く事を願っています。
今後もフロイント産業は世界中の人々の健康に役立つ技術の開発に邁進してまいります。
そして、松本先生が研究されている協同乳業様の新商品が出来上がる事を楽しみにしています。

本記事の読者の皆さま、お問い合わせやご質問がございましたら、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。

参考:協同乳業株式会社「健康腸寿ナビ」

キーワード: 錠剤コーティング 健康食品業界 食品業界 コーティング

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