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フロイントグループ創業からの知識の海

【共同開発事例】アイ・モーションテクノロジー×シオノギファーマ 滴定画像自動化装置HIPPO SCANができるまで! 機械 2025.03.31

いつもFREUND KNOWLEDGE OCEANをご覧頂き誠にありがとうございます。フロイント産業株式会社の山口です。

今回は、「滴定画像自動化装置HIPPO SCANができるまで!」と題して、当社が販売するHIPPO SCANの開発秘話をお送りします。

製造元のアイ・モーションテクノロジー株式会社様と、共同開発されたシオノギファーマ株式会社様にインタビューを行いました。
これまで世の中になかった装置がどのように開発されたのか?詳しく語っていただきましたので、ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。

2019年7月26日設立

事業内容:ロボットアーム及びその応用技術の開発・製造、各種機能モジュールOEM受託、自動化装置の開発・製造・販売

企業理念:作業環境をオプティマイズし人間がより創造性を発揮できる社会創りに貢献します。

2018年10月1日設立

主な事業内容:「世界で最も頼りになる技術開発型ものづくり企業 (CDMO)※」を目指して、生産受託サービス事業ならびに医薬品の製造販売事業を展開。
※CDMO:Contract Development & Manufacturing Organization

シオノギファーマの成し遂げたいこと:技術開発を軸に新たな価値を創出し、付加価値の高いヘルスケア製品・サービスを提供し続け、人々の健康維持、増進と社会の発展に貢献する。

この記事の登場人物

(左から)
シオノギファーマ株式会社 猿田様
金ケ崎工場 品質管理部 サブグループ長 本プロジェクト開始当初から参画。

株式会社 アイ・モーションテクノロジー 岡田様
HIPPO SCANを開発した企業の代表取締役。

フロイント産業株式会社 インタビュアー 山口

※本文中は、株式会社 アイ・モーションテクノロジー 岡田様を(水色)シオノギファーマ株式会社 猿田様を(緑)で記載させていただきます。

山口:本日は滴定画像自動化装置HIPPO SCANの開発と販売について、お話を伺って参ります。どうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、世の中になかったこの装置を開発することになったきっかけから教えていただけますでしょうか?

岡田:我々はロボットを開発し、ロボットで生産の効率化を目指す事業を展開しています。シオノギファーマ様へ品質管理の分野で何か自動化の可能性をご提案したところ、試験業務における作業者への依存やリソース不足といった課題があることがわかり、自動化技術を活用して解決を目指す取り組みへの協力に快諾いただきました。
まず金ケ崎工場に訪問させていただき、様々な試験を見学させて頂きながら自動化が可能な試験を検討しました。その中でシオノギファーマ様からご提案いただいたものの1つが指示薬による滴定試験(以下、滴定試験)でした。

山口:従来の滴定試験は、どのような部分で課題があるのでしょうか?

猿田:まず、滴定試験は熟練者でも難しく、作業者負荷も非常に大きい試験で、試験者のトレーニングにも時間がかかるものです。ここを自動化することで、作業者負担を減らせると思いました。

山口:作業者負担とは具体的にどのようなことがあり、トレーニング期間はどれぐらいかかるのでしょうか?

猿田:色変化が急にくるので、それを見極めるために、すごく緊張します。精神的な負担が大きく、試験者の拘束時間も長い、それを毎日行っています。色の変化を見極めるのは経験の浅い試験者には難しく、訓練された分析技術者が実施しています。
トレーニング期間は、3か月から半年ほどかかると思います。

岡田:この現状をお聞きし、カメラを活用して色の変化を数値化し記録することで、試験の信頼性向上や、品質管理の人手不足の解消がはかれるのではないかと考えました。

山口:では、具体的にどのような製品にするか、ひらめきから形になるまでの経緯を教えていただけますでしょうか?

岡田:我々は、医薬品の分野に関してはほとんど知識がありませんでしたので、猿田さんをはじめ、シオノギファーマ様の皆様に、試験の際に注意すべき点や、守るべき規則について教えていただき、それに対応できるよう開発を進めていきました。
最初のディスカッションには相当な期間がかかったと記憶しています。

猿田:そうでしたね、モック(試作機)が出来上がったのが割と最近で、形になってからは早かったですが、構想練るのに3か月ぐらいはかかりましたね。現地でのデモの繰り返しも長かったです。

山口:開発するにあたって、製薬会社であるシオノギファーマさんから出された条件はありましたか?

猿田:要望した機能は3つあります。

1つ目は『データインテグリティを強化し、客観的な記録を残すこと』です。
これまでの滴定試験における終点判断は目視によるもので、それが正しいか否かは、試験者の独善性と主観的判断によってのみ担保されており、客観的な結果とは言えません。
昨今、医薬品業界のデータ改ざんなどの不正問題もあり、ますます客観的かつ信頼性の高い結果を記録として残すことが要求されています。ですので、そもそも改ざんできない仕組みにしたいと思いました。
試験結果の完全性を強化することは、弊社のみならず業界全体の喫緊の課題であると認識しています。

2つ目は『滴下の過程をモニタリングできること』です。
試験では、予期せぬ結果が得られることが稀にあります。滴下に伴う色変化の挙動を見える化することは、異常値の原因究明に大いに役立つと考えます。
異常が出た時に、この過程どうたった?と試験者にヒアリングするのですが、それは試験者の主観でしかない。そういうところを電子的に記録できていればより良いと思いました。

3つ目は『簡便なユーザーインターフェース(UI)』です。
先ほどもお伝えした通り、滴定試験は終点判断が難しく、トレーニングに労力を要します。試験者の心理的負担に加え、トレーナーの作業負荷も大きいという問題もあります。現場の人手不足がなかなか解消されない中で、新しく入社した人が特別な知識や経験がなくても、簡単に操作できるUIを要求しました。

山口:このシオノギファーマ様からの要望を叶える開発を、岡田さんはどのように進められましたか?

岡田:開発初期には、滴定試験の終点を正確に判断できるアルゴリズムの構築に注力しました。基本的には、色の変化を観察する検査なので、カメラを使うことに決定し、構成方法を同時に検討しました。
初めはカメラだけで観察していましたが、外乱光の影響で色の値が大きく変わることが分かりましたので、LEDライトを導入して安定した色値を取得できるようにしました。試作機を製作し、シオノギファーマ様の現場で実際の滴定試験に使用していただきながら、データ収集と改良を重ねました。
その結果、初期の試作段階で得たフィードバックを基に、装置の操作性やメンテナンス性を向上させる改良を行いました。製品化の過程では、安全性の確保や運用時のトラブルリスクを考慮した設計を行い、安心して使用できる装置の実現を目指しました。
装置の基本性能が確立した後は、市場投入に向けた最終調整を行い、操作マニュアルや、プロモーション資料の整備を行いました。
このようなプロセスを経て、信頼性と使いやすさを備えた製品として市場に出すことができました。

猿田:弊社は試験の観点から、開発にコメントすることができましたが、機械技術的な部分はアイモーションさんの技術力に頼る形でした。
プロトタイプを作成、稼働性能確認、プログラム修正を繰り返して製品化に至りました。
両者の強み、お互いが持っていない知見を補完し合って完成できたのだと思います。

山口:時間もかかるし、難しいし、心理的な負担もかかるという課題を解消できる機械、しかもモニタリングできるようにというのは、改めてすごい装置ですね。

山口:テストと改良を重ねられたということですが、特に苦労された点はありますか?

岡田:まずは、医薬品分野の知識がなかった点です。我々は医薬品の検査についても素人で分からないことだらけでしたので、シオノギファーマ様に教えていただき、試料の調製方法なども勉強しました。
他には、先ほどお話しした外乱光による色値のばらつきの問題です。
色変化は非常に繊細で外乱光の影響で大きく変化することが分かりました。そのためカメラの評価や照明の条件の最適化に多くの時間を要しました。

猿田:お互いが異なる強みを持っていましたが、製品化するまでにメカニックの側面と測定原理の両面を網羅的に理解している人がいなかったことが、時に開発を難航させたと思います。
シオノギファーマから試験法のポイントをお伝えする際、メカニックな部分は分からないことが多いので正確にお伝えできず、開発スピードを鈍らせてしまったこともあったのではないかと思います。ただ、かなり最初から、完成度の高いものを提供いただいたので、我々としてはそこまで苦労はしていないと思います。私たちがコメントするのは非常に細かい部分だけでした。

岡田:医薬品は、規制が厳しく、手順が丁寧に定められています。我々では分からないことが多いため、猿田さんに指摘していただけたのは、とても助かりました。

山口:ところで、この「HIPPO SCAN」という製品名は、どこから生まれたのでしょうか?

岡田:開発メンバーのミーティング内で、製品名の案出しを行った中での1つです。かなりの数の案が出ましたが弊社のロボット製品に「フラミンゴ」という名前のものがあり、同じように動物の名前にすることが1つのヒントになりました。
HIPPO SCANのHIPPOはカバを意味していまして、この製品の形が、カバが口を開けている姿に似ていることから決まりました。

山口:この名前は、特に女性の方に評判がいいそうですね。

岡田:はい、機械のメーカーでは珍しい名前だと思います。一般的な装置は、機能を表すメカメカしい名前や、英数字の型番タイプが多いので、そのどちらでもない「HIPPO SCAN」は馴染みがよく、インパクトもあると思います。

猿田:実際に製品化する際は、外箱の形や印刷位置、装置につけるラベルの色まで、細かい部分までよく考えていただきました。

岡田:カタログやラベルのデザインはフロイントさんがやってくれましたね。

山口:カタログに載せるカバをリアルなカバにするか、ポップなイラストのカバにするかなど、皆さんと相談しながら決めたのも良い思い出です。

山口:既に販売を開始されましたが、今、課題に感じたり、更にブラッシュアップしていきたい部分があれば教えてください。

岡田:現在の装置は、1サンプルの滴定試験は実行できるものの、複数の試料を自動で連続して行う機能が無いため、作業効率が制限されています。オートサンプラー機能を導入することで、複数サンプルの処理が可能となりますので、次の展開はオートサンプラー機能を目指しています。

山口:猿田さんも、その機能は望まれますか?

猿田:実は、金ケ崎工場での検査は、1品目1回の少量多品種なので、オートサンプラーは逆に難しくそこまでのメリットは感じません。同じものをたくさん分析している業界や会社であれば、大きなメリットになると思います。

山口:なるほど、使い方によって、機能が2パターンあると良さそうですね。

猿田:物によっては、機械でやるより手動で検査した方が早い場合もあるのですが、そこまでデメリットにはならないと考えます。
時間短縮よりも、人の介在を減らし、客観的に記録が残るということの方がメリットとして大きい。そこが、強みだと思います。

山口:ユーザーさんによって、どこに重きを置くかが違うのですね。

岡田:そうですね、同じ医薬品でも、たくさん分析する会社もあれば、1つの試験1個という会社さんもあるので、話を聞いていると違いが多くあり興味深いです。

山口:猿田さんは、製薬業界で使用する上で最も重要と考える機能や使用面でのポイントなどはありますか?

猿田:希望条件でも述べましたが、DIの強化、データの可用性、作業者負荷の低減です。
テクノロジーを用いて現場がもっと楽になり、且つデータの質を向上させることが重要です。DIの強化のためには、徹底した仕組みづくりとそれを遵守する人の育成が必要となり、DIを強化すればするほど、作業者負荷は増えるのが一般的です。
HIPPO SCANの開発は、DI強化と作業者負荷の低減を両取りすることができると思います。
先ほどから繰り返し言っている通り、データを客観的に残すことが、絶対必要なこと、データをさかのぼって確認できることは、トラブルの検出にも多いに役立ってくれると思う。
その上で、作業者の拘束時間を減らすというメリットもあるので、多くのお客様に使っていただきたいと思います。

山口: 最後に今後の展望について教えてください

岡田:開発が終わり販売に動き出しているのですが、当初開発した時には、医薬品業界だけが必要とされている装置なのかと思っていましたが、化学業界、食品、環境分析など様々な業界で滴定装置が使われていることを知りました。
まだ色々な可能性があるなと思っています。
今の装置は、医薬品に向けて作っていたので、食品業界や飲料業界だと、高スペックすぎると言われることがあります。例えば電動ビュレッドを用いない機種など、各業界のニーズに適したスペックとコストの製品を、複数の種類を揃えていきたいと思っています。

山口:シオノギファーマさんでは、HIPPO SCANを今後どのように活用されるご予定ですか?

猿田:我々は日常行っている試験に活用します。この装置を使うことでデータの信頼性がより強固になれば、高品質な医薬品の供給に大きく貢献すると思います。
また、そのような信頼の積み重ねがSHIONOGIの信頼につながり、新しい技術を以て持続的な改善を行うことは、会社のブランディング向上にもつながっていくと思っています。
開発に長く携わってきましたが、デモとして用いたサンプルはほんの一部です。これから実使用でもっと数多く使用し、初めてわかる課題も多く出てくるかと思います。そこは引き続き岡田さんとコミュニケーションをとって、改善に向けてフィードバックしていきたいです。

山口:HIPPO SCANは、DIやLIMSにも対応している点もメリットと聞いていますが、この点は、医薬品業界ではいかがでしょうか?

猿田:この滴定検査だけでなく、データを客観的に保障するエビデンスを持って、試験結果を提出しないといけないという風潮はどんどん強くなっているので、かなり有用な装置だと思っています。ただし前例がない装置を導入するのは、会社としてリスクに感じる方がいるもの理解できます。
不正を排除し、会社を守っていくために導入するという良い点をご理解いただき、たくさんのお客様にHIPPO SACNを使っていただきたいです。
それが業界にも役立つものだと感じています。

山口:猿田さんは今回のこの共同開発について、どのような感想をお持ちですか?

猿田:まったく異なる分野の方々とディスカッションを重ねて新しい視点を得たことは、個人的にとても勉強になりました。苦労もありましたが、両者の強みを活かして、一つの製品を完成させたことは、通常業務をしているだけでは得られない達成感を得ることができたと思います。

ロボット開発の技術を、品質管理の分野で役立てるには?という発想から生まれた業界初の装置の誕生秘話を教えていただきました。
それぞれの知識を出し合い、検討を繰り返して誕生したという話が特に印象的でした。
今後、どのような業界に広がっていくのか非常に楽しみです。

フロイント産業も「創造力で未来を拓く」の企業理念を胸に、医薬品業界を中心とする様々な業界のお客様のお役に立てる技術を生み出す努力を続けてまいります。

今回ご紹介した、滴定画像自動化装置 HIPPO SCANは、実機によるデモンストレーションやレンタルを行っております。また、現在定期的にウェビナーを開催していますので、ご興味のあるお客様は、ぜひ一度ご参加くださいませ。詳細は下記のリンクからお願いいたします。

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