小児用製剤向けの微粒子コーティング技術 ~適切な装置と核粒子~ 添加剤 2022.08.19

小児用の経口剤開発では、苦味や口腔内でのざらつきを抑えた服用しやすい製剤が求められています。
ニーズに応えるためには、機能性微粒子が組み込まれたODT*1を製造します。
ODTは口腔内で速やかに崩壊する工夫がされており、服用しやすい剤形です。また崩壊した粒子は口腔内でざらつきを感じにくい大きさに設計されています。
ODTに組み込む機能性微粒子の製造には、空気流で流動層を形成する造粒・コーティング技術が応用されています。また機能性微粒子は、精密な製剤設計をベースに調製されます。その際、微粒子は一次粒子の性状を維持する必要があります。(なお核粒子として使用される添加剤は、近年、機能性と服用性の観点から、微小な球状顆粒の使用が一般的です。)
しかし機能性微粒子は取り扱う原材料が微小で、さらに結合剤を利用するため、粒子凝集を誘発します。
そのため機能性微粒子が組み込まれたODTの製造には、適切な装置と核粒子の選択が必要です。
本記事では、小児用製剤のニーズに応える機能性微粒子を製造する微粒子コーティング技術について、また製造プロセスで使用されるコーティング装置とコーティング用核粒子、機能性微粒子の調製事例と併せて紹介します。
*1 ODT: Orally Disintegrating Tablet

小児用の経口剤開発では、次の2点が課題と考えられています。
- 苦味
小児は苦い薬物の服用に強い抵抗を示します。
- 薬の飲みにくさ
成人用の錠剤サイズや薬の形状によっては、小児にとって嚥下困難を伴う場合があります。
服薬アドヒアランスの低下を避けるために、苦味を抑え服用しやすい製剤を作る必要があります。
では課題を解決するためには、どのような対策が必要なのでしょうか。
- 苦味を抑える(苦味マスキングと放出制御)
- 錠剤サイズを調整する(Mini-Tablet*2の製造)
小児用製剤では、上記のaとb両方を組み合わせることが解決策になります。
*2 Mini-Tablet:直径1~4mm程度の錠剤。小児など薬の服用時に嚥下困難を伴う患者に適した剤形の一つ。*3 *4 小児の年齢・体重に応じて用量調節がしやすい。
*3 I. Stoltenberg, J, Breitkreutz, Eur. J. Biopharm. 78, 462-469 (2011)
*4 V. Klingmann, et al. J. Pediatrics 163, 1728-1732 (2013)
前項で挙げたような、コーティングすることで特定の機能(苦味マスキングなど)を持たせた微粒子を、機能性微粒子と呼びます。
- 苦味マスキング微粒子
苦味のある薬物または薬物含有粒子の表面を、高分子の被膜でコーティングした微粒子。物理的なマスキングにより、口腔内での苦味成分の溶出が制御可能。
- 放出制御微粒子
1.と同様に粒子の表面をコーティングし、任意の場所で溶出するよう制御した微粒子。
そして機能性微粒子は、微粒子コーティング技術を用いることで製造できます。
微粒子コーティングを実現するための装置と核粒子(添加剤)には、どのようなものが適切でしょうか。装置と核粒子、それぞれについて説明します。
微粒子コーティングには、空気流で流動層を形成する造粒・コーティング技術が応用されています。
そのため微粒子コーティングでは、アレンジされた流動層造粒装置を利用し、その点を改善します。
流動層をベースとする製造技術には複数の方法があり、ここでは、その中から2タイプについて説明します。
- 流動層造粒コーティング装置(側方噴霧方式)
- 転動流動層造粒コーティング装置(遠心転動型)
流動層造粒コーティング装置(側方噴霧方式)
流動層造粒コーティング装置の下部傾斜壁面に、スプレーガンが装着された装置です。
この傾斜壁面付近は、ほとんど空気流のない領域です。そのためコーティングされる粒子が一定の速度で、安定的に循環、活発に運動する領域でもあります。
この領域にある粒子は近くのスプレーノズルから噴霧されるコーティング液で被覆されるため、液滴のみが噴霧乾燥されることなく、粒子へ高効率で付着します。コーティング液が付着した粒子は、すぐに空気中で乾燥されます。
またスプレーガンからの噴霧空気は、粒子間の凝集を抑制する解離作用も働くため、噴霧空気圧を調節することで解離効果をコントロールすることが可能です。
転動流動層造粒コーティング装置(遠心転動型)
流動層造粒コーティング装置の底部に、回転円板(ローター)を組み込んだ装置です。
円板上の核粒子は回転する円板から受ける遠心力と旋回力により、外側に向かって円弧を描きながら転がります。円板外周部付近の粒子は、円板の外周と本体内壁との間隙(スリット)から噴出するスリットエアーと一緒に上昇し、円板中心部の近くに落下します。こうして粒子層全体が回転しながら渦巻状の循環流を形成します。
スプレーガンは側壁に装着されており(接線スプレー)、粒子の近くからコーティング液をスプレーし、粒子へ被覆物質を付着させます。
または、スプレーガンからバインダー液を噴霧しながら、被覆物質の粉末を散布して被覆層を形成させることもあります。
遠心転動型の装置は、かさ密度が高く真球度の高い顆粒を生成することから、球状顆粒の製造に利用されます。
また核粒子へ粉末を付着させて顆粒を製造する方法は、液を噴霧する方法と比較して時間あたりの被覆量を大きくできるため、製造時間の短縮に有効です。
優れた薬物放出制御を実現するためには、粒子への精密なコーティングが必要です。その際、核粒子には、比表面積が小さく、コーティング層の膜厚管理が容易な球状の粒子を利用することが望ましいです。これについては有効性が報告されています*5。
核粒子として利用される球状顆粒の例

これらは真球度が高く粒度分布がシャープな粒子です。また、薬物や用途に合わせて選択できるよう、組成・粒径の異なる製品があります。
その中でも、乳糖・結晶セルロ―ル球状顆粒(ノンパレル®-105)やD-マンニトール単味から成る球状顆粒(ノンパレル®-108)では、平均粒子径が200 μm以下のグレードがあり、小児用製剤やODTの機能性微粒子の核粒子に適しています。
「装置について」で述べた通り、これら球状顆粒の製造においては、遠心転動造粒コーティング装置が使用されます。
マンニトールの結晶を造粒したものを転動させ、粉砕したマンニトールを粉末被覆することで、真球度が高くシャープな粒度分布を持つ球状顆粒を製造することができます。
*5 山中邦昭, PHARM TECH JAPAN, 23(7), 111-115 (2007)
*ODMT: Orally Disintegrating Mini-tablet
次に、苦味マスキング微粒子を含むODMTモデルの調製例を紹介します。(使用装置:流動層造粒コーティング装置 FLO-5M)

なお調製した機能性顆粒の溶出試験も実施し、初期の溶出が抑えられ、苦味マスキング性能を有することを確認しています。
機能性顆粒の溶出試験についての詳しい資料は、こちらからお問い合わせいただけます。
小児用製剤向けの微粒子コーティング技術について、コーティング装置とコーティング用核粒子、苦味マスキング微粒子の製造技術について説明しました。
微粒子コーティング技術は、苦味を有する薬物を物理的にマスキングできるため、製剤の服用性を向上させる上で重要な技術の一つです。また応用例でご紹介したように、微粒子コーティング技術により製造された機能性微粒子をODTやMini-tabletに組み込むことで、服用性に加えて取扱い性のよい、患者さんにとって付加価値の高い製剤になります。
フロイント産業は、小児用経口剤開発のニーズに応える微粒子コーティング技術のための装置と核粒子をご提供しています。ぜひ製品ページもご覧いただき、お問い合せ下さい。
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