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核粒子の大きさが製剤設計へ与える影響 添加剤 2023.05.09

添加剤ノンパレルMM80

経口投与製剤を設計する際、薬物粒子にポリマーをコーティングし、苦味マスキング顆粒や放出制御顆粒として錠剤に組み込む手法をとることがあります。この手法で製造された製剤はMUPS (Multiple Unit Pellet System: マルチプルユニットペレットシステム)と呼ばれ、苦味の強い薬物を使用する場合や、溶出制御が必要な製剤の製造に有効です。
本記事では、MUPSを調製する際の問題点とその解決策についてご提案します。

佐藤 綾香(Sato Ayaka)

フロイント産業株式会社
化成品開発部 開発課

徐放性製剤は放出制御製剤のひとつで、服用後に体内の有効成分濃度を一定時間コントロールすることで、効果を持続させ服用回数の減少や、副作用の発生頻度を下げることを目的として設計されます。その中でも経口投与型製剤は、シングルユニット型とマルチプルユニット型に分類されます。

シングルユニット型は消化管内で投与剤形が容易に崩壊・分散しないまま徐々に薬物が放出されるため、消化管での製剤の移動に大きな個人差が出やすいのに比較し、マルチプルユニット型(MUPS)では投与後まもなく、1つの製剤から放出制御などの機能を有した小さな顆粒などの多数のユニットに分散されて、大きさによる抵抗が少なく消化管内を移動してその機能を示します。

マルチプルユニット型には、胃内滞留時間の変動、また薬物吸収部位通過時間の変動などが少なく、安定した薬物の消化管吸収が得られやすいというメリットがあります。

MUPS錠に含有される放出制御顆粒は、他の添加剤との均一混合性が求められます。そこで均一混合性を確保する方法のひとつとして、核となる粒子の粒子径を小さくする方法があります。一方で、コーティングの対象である核粒子の粒子径を小さくすればするほど比表面積が大きくなり、また、噴霧エアーで高く舞い上げられるなど機械的刺激を受けやすくなり、壊れやすくなります。そのため、より穏和な条件でのコーティングが必要とされ、その結果としてコーティング工程に要する時間が延長します。

そこで我々は既存のノンパレル®※ラインナップの中で最小粒子径であるノンパレル®-108(100グレード:粒径75~150 µm)よりも小さく、平均粒子径が80 µm(45-106 µm)の球形粒「ノンパレル®-MM(80)(以下NP-MM(80))」の開発に取り組んできました。NP-MM(80)はマンニトールと結晶セルロースで構成される球形粒で、顆粒強度が高く製造性に優れ、粒子径を小さく仕上げられることで口に入れたときのざらつき(テクスチャ)も低減します。

以下の章では、NP-MM(80)を流動層コーティングの核粒子として用いた際のコーティング時間の短縮、および錠剤に成形した際の含量均一性について紹介します。 微粒子コーティングに有用な装置、核粒子については以下の記事にて紹介しています。

核粒子の顆粒強度を比較するため、流動層にてスプレー空気圧を変化させて薬物の微粒子コーティングを行いました。核にはNP-MM(80)、NP-108(100)、NP-105(150)を使用し、コーティング後の微粉増加量から耐摩損性を評価しました。
これまで、流動層での微粒子コーティングにおいて、小さな核粒子になるほど核粒子の割れ欠けや凝集の発生などが問題となり、穏和なコーティング条件下でないとうまくコーティングができませんでした。
しかし、NP-MM(80)のような顆粒強度の高い核粒子を使用することで、過酷な条件下でも微粉や凝集が発生せず、スプレー液速度の増加によるコーティング時間の短縮が可能です。

放出制御顆粒の粒子径が小さくなると、錠剤一錠あたりに含有される放出制御顆粒の数が多くなります。その結果、錠剤ごとのバラツキが抑えられ、含量均一性が確保できます。そこでNP-MM(80)を用いた小さな放出制御顆粒を使った場合、MUPSの含量均一性に与える影響を評価しました。 NP-MM(80)および比較対象としてNP-105(150)を核とした放出制御顆粒を使用した直径8 mmのMUPS錠の含量均一性試験を実施したところ、NP-105(150)の場合、薬物含量RSDが 3%前後と十分な含量均一性を確保できていますが、より粒子径の小さなNP-MM(80)を使用することで薬物含量RSDが2%以下の、さらにバラツキの少ないMUPS錠が調製できました。また、小児など薬の服用時に嚥下困難を伴う患者に適した剤形の一つとして注目されているMini-tabletでも同様の試験を実施し、さらに含量均一性の効果が高いことを確認しています。

本記事では、経口投与製剤の中でもMUPS錠の調製に着目し、粒子径の小さな核粒子(NP-MM(80))を用いた微粒子コーティングの工程時間短縮などの特徴、また核粒子の粒子径がMUPS錠の含量均一性に与える影響について説明しました。
コーティング時に用いる核粒子の種類や大きさは、コーティング所要時間や含量均一性に影響を与えるため、設計したい経口投与製剤の剤形によって適した核粒子の選択が必要です。また、核粒子の大きさは服用した際のテクスチャにも関わるため、小さな核粒子を使用することで医薬品の服用性が改善され、患者様のQOL(Quality of life)の向上が期待できます。

キーワード: 微粒子コーティング 徐放化 医薬品業界 コーティング 錠剤コーティング 口腔内崩壊錠 OD錠

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