覚えておきたい製剤技術の基礎知識! 第8章:物性測定 FREUND Academy 2024.10.07
FREUND KNOWLEDGE OCEANをご覧いただき誠にありがとうございます。
FREUND Academy Instructorの武井でございます。
このFREUND Academyでは、製剤に関するベーシックな知識を全10章に分けてお送りします。
前回、乾式造粒装置についてお伝えしました。今回は、物性測定1)について詳しくお伝えいたします。
皆さまにお役立て頂けるホワイトペーパーもございますので、今回も是非最後までお付き合いください。
まだご覧になっていない方は、
密度とは単位体積中に含まれる物質の質量で、通常使われる単位は[kg/m3]や[g/cm3]です。一方、比重とは物質の質量と同体積の4℃の水の質量との比ですので、したがって比重は単位を持ちません。
(4)関係する用語
a. 充填率(φ):粉体のかさ体積に対する粒子体積の割合(空隙率の逆数)
b. 空隙率(ε):粉体のかさ体積中の空隙の割合
1.1 真密度
真密度を測定する方法としては、粉体の体積を液体か気体に置換して求め、実際の質量との比を求める方法(液体置換法、気体置換法)があります2)。液体置換法の場合、多くはピクノメーター(図2)法の改良装置であり、気体置換法は空気またはヘリウムを利用した装置が主流です。
(1)液体置換法
粒子の表面を濡らしやすい液体(これを浸液という)に浸し、粒子の裂け目、割れ目、洞穴などにある空気を十分除去するために、煮沸や真空吸引などを行って粒子のすべての表面を液体で濡らし、粒子によって排除された液体の体積を測定する方法です。
(2)気体置換法
上記の液体置換法は適当な浸液が見つかる場合にしか使えません。有機物質や複合物質などでは液体置換法は使えないことが多く、このような場合には気体置換法を使います。
気体置換法には、定圧力で体積変化を直接測定する方法、定容積で圧力変化とボイルの気体法則から体積を求める方法があります。
1.2 かさ密度
かさ密度は粉体粒子群を容器に充填して単位体積当たりの質量を求めます。この場合、体積は粒子間の空間や粒子内の空間を全部含んだ値です。したがって、容器に充填する粒子の詰まり方によってその値は大きく変わります。
かさ密度といえば通常自然な状態で堆積された物質の見かけの密度(ゆるめ、loose、粗などと表記)という考え方が一般的で、とくに外力を加えたときは、その方法によりタッピング密度(かため、tapped、密などと表記)や圧縮密度(人工的に圧力を加えて詰める)などといいます。
かさ密度測定方法の一例は下記の通りです。
粒度と粒子径はよく混同されますが、粒度というときは1次元だけではなく2,3次元の大きさのときもあり、また、分布も含めて広い意味に使われます。それに対して粒子径とは、個々の粒子を対象にしたときのそれぞれの大きさを表します。
2.1 粒子径
(1)粒子径の測定法
粉体の粒子径を求める方法は、① ふるい分け法、② 顕微鏡法、画像解析法、③ レーザー回折・散乱法、④ その他の方法などに分類されます。一般に測定法によって平均粒子径が異なるため、測定法を表示することが望まれます。
① ふるい分け法
粒度測定に用いた標準ふるいの網目の大きさによって粒子径を決める方法。標準ふるいの網目は幾何級数で段階的な大きさを持っているので、粒子がちょうど残留した段とその上の網目の大きさの算術ないし幾何平均によって、その残留粒子の代表径とすることもあります。正しくは、粒度分布を求めて評価する方法(後述)が好ましいと言えます。
② 顕微鏡法、画像解析法
光学顕微鏡、電子顕微鏡などで一つ一つの粒子を測定し、統計的方法(粒度分布の項で説明)によって平均径(円相当径)を求めます。光学的に粒子群の画像を撮影し、その画像から粒子径を算出する方法(画像解析法)もあります。
③ レーザー回折・散乱法(図3)
粒子にレーザー光を照射すると、粒子の大きさに応じて様々な方向へレーザーが回折、散乱します。これらの回折、散乱強度を解析することで粒子径を求めることができます(体積球相当径)。乾式と湿式の両方で測定可能です。
例:マイクロトラック、インシテック、パーサムなど
図3 レーザー散乱のイメージ
④ その他の方法
a. 沈降法
この方法では、流体(液体、気体)中を粒子が沈降するとき、粒子の沈降速度を与えるストークスの式から粒子径(ストークス径)を算出します。例:アンドレアゼンピペット。
b. 比表面積径を求める方法
吸着法や透過法があります。
(2)平均粒子径
粉体の粒度は必ず分布を持っていますが、実用的にはその粒子群を代表する一つの粒子径で表現することがあります。
よく用いられる代表径としてモード径、メジアン径などがあります。モード径は粒度分布曲線の最大値であり、その粉体中に最も多数含まれる粒子径です。メジアン径は積算粒度分布曲線の50%に相当する粒子径で、50%粒子径D50ということもあり、この径以上と以下の粒子量は等しくなります。
2.2 粒度分布
粒度測定結果を図示する方法について説明します。
(2)粒度分布線図の利用
多くの場合、粒度分布は通常何らかの法則性を持っています。それらのうちでよく利用されているのは累積粒度分布曲線です。累積粒度分布曲線とは図5に示すように、縦軸にふるい通過粒子の累積重量(標準目盛あるいは正規確率目盛)、横軸は粒子径(対数目盛)でプロットしたものです。
このグラフから積算ふるい下84.13%粒子径と50%粒子径D50を読み取れば、次式により標準偏差σgが求められます。
また、グラフの傾きは粒度分布のシャープさを示し、傾きが急なほど粒度分布がシャープです。粒度分布のシャープさは上述した標準偏差や、90%粒子径と10%粒子径の比D90/D10で評価できます。
*横軸を対数プロットにする理由
造粒操作において、粒子径が何μm大きくなったという比較より、何%大きくなったという比較のほうが現実的であるという考え方による。
[標準プロット]
100μmの粒子が110μmになるのと、1000μmが1010μmになることが、それぞれ10μmアップなので 同じ造粒進行度とする考え方。
[対数プロット]
100μmの粒子が110μmになるのと、1000μmが1100μmになることが、それぞれ10%アップなので同じ造粒進行度とする考え方。
2.3 粒子径基準
(1)粒子径基準
累積粒度分布のグラフでは、縦軸はその粒子が存在する頻度を示します。この頻度の数え方を「粒子径基準」と呼び、個数基準、面積基準、体積(質量)基準などの数え方があります。ふるい分け法は質量基準、顕微鏡法は個数基準、レーザー回折・散乱法は体積基準、沈降法は面積基準です。粒子径基準が異なると、粒度分布や平均粒子径が異なるため、異なる測定原理間で粒度分布を比較する場合、粒子径基準に注意する必要があります。
(2)個数基準と体積基準の比較
粒子径基準の違いが粒度分布、平均粒子径に及ぼす影響について、個数基準と体積基準を例に説明します。
粒子径が10μm、20μm、30μmの球形粒子がそれぞれ5個ずつある場合、それぞれの体積と体積割合を計算した結果を表1に示します。この場合の個数基準と体積基準の粒度分布は図6になります。それぞれの平均粒子径を求めると、個数基準では20μm、体積基準では約23μmと異なる結果が得られます。
体積基準では、全粒子の体積の大部分が30μmの粒子によるもので、したがって平均粒子径も大粒子側にシフトします。
粉体の流動性とは、粉体がさらさら流れる流れやすさといえますが、1つの物性値だけで評価はできません。すなわち、粉体の挙動や取り扱い方によって、流動性の指標が異なると考えられます。ここでは、流動性の評価方法として安息角、圧縮度について説明します。
3.1 安息角
粉体の流動性の指標としてもっとも使われているのが安息角で、ある程度の目安になります。しかし、種類の異なる粉体間の比較では必ずしも流動性の良否を判定できるとは限りません。また、測定法によっても安息角の値が異なることもあります。測定法は大別すると(1)注入法、(2)排出法、(3)傾斜法があり、各測定法の例を示します。
3.2 圧縮度
容器内に粉体を充填する場合、流動性が悪いものほど不均一で空隙率が大きい充填状態になります(ゆるめのかさ密度)。均一に、かつなるべく高密度に充填するにはタッピング振動を加えるのが有効です(かためのかさ密度)。
流動性の良い粉体では、タッピングしなくてもある程度高密度な充填が可能なので、「ゆるめのかさ密度」と「かためのかさ密度」の差が小さくなります。そこで、「ゆるめのかさ密度」と「かためのかさ密度」との比率(圧縮度)は流動性を表す指標の一つです。
圧縮度C
分子の三次元配列に一定の規則性を持つ固体を結晶と呼びますが、製剤技術に関係する結晶の性質について用語説明します。
4.1 結晶多形
同一分子でも配列が異なる結晶があり、これを結晶多形といいます。医薬品の主薬では結晶構造の違いにより物理的性質が異なり、安定性、溶解性、吸収性に影響があります。
一般に、安定形結晶は、融点が高く溶解度は小さくなります。準安定形結晶は、融点が低く溶解度は大きくなります。製剤工程中に結晶形が変化すると溶解度が変化し薬物の吸収率に影響しますので、注意が必要です。
4.2 水和物
結晶中に水を含有する物質を水和物と呼び、結晶中に含まれる水を結晶水といいます。水和物は水分子が分子間に入り水素結合するので安定です。
結晶中に水を含まない物質は無水物と呼ばれます。一般に無水物のほうが水への溶解度が大きくなります。
4.3 非晶質(アモルファス)
結晶とは異なり、分子の三次元配列が乱れている固体です(例:ガラス、ゴム、プラスチック)。
非晶質は結晶よりも不安定で、溶解度、溶解速度が大きくなります。
4.4 結晶化度
結晶性高分子の構造は、結晶部分と非晶質部分から構成され、その結晶部分の割合を結晶化度といいます。
結晶化度の測定には、密度法、赤外線法、NMR法、熱分析法などが用いられます。
4.5 固体分散体
固体分散体とは、薬物を固体状態の不活性な担体中に微粒子または分子状態で分散させたもので、難溶性薬物の可溶化に有用です。
製剤物性の測定法は、基本的に日本薬局方(一般試験法、参考情報)に規定されています。上述した粉粒体の物性も規定されていますが、ここでは経口固形製剤に関係する物性測定法のいくつかを紹介します。
5.3 溶出試験法
溶出試験器(図10)は、試験液を入れる半円球の底を持つ容器、円筒形のバスケットまたはパドル(撹拌羽根)、回転軸、電動機及び恒温水槽で構成されます。
試験方法には、バスケット内に錠剤を加え、バスケットを試験液中に吊り下げて回転させる方法(回転バスケット法)と試験液中に直接錠剤を加え、吊り下げられたパドルを回転する方法(パドル法)が主に用いられます(他にフロースルーセル法があります)。一定時間ごとに試験液を採取し、試験液に溶けだした薬物濃度を測定し溶出挙動をグラフ化します。
薬物濃度の測定には、UV(Ultra Violet)吸光度測定法と液体クロマトグラフ法(HPLC法)が多用されています。
↓↓↓ 更に詳しく学びたい方へ資料をご準備しております。下記よりダウンロード可能です ↓↓↓
第8章は、物性測定についてご説明しました。最後までご覧いただきありがとうございました。
次回、第9章は医薬品添加剤について説明予定です。
このコンテンツが製薬業界の更なる進歩発展の一助となれますよう、心を込めて執筆いたします。
次回もお付き合いくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
参考文献
1)第18改正日本薬局方:粉体物性測定法
2)日本産業規格:JIS Z8807
3)固体医薬品の物性評価(第2版):日本薬剤学会物性FG(Focus Group)監修、米持悦生編集、じほう社(2018)
↓↓↓ この記事に関するご意見・ご質問は、下記よりお気軽にお問合せくださいませ。 ↓↓↓
キーワード: