覚えておきたい製剤技術の基礎知識! 第10章:口腔内崩壊錠 FREUND Academy 2025.05.07

FREUND KNOWLEDGE OCEANをご覧いただき誠にありがとうございます。
FREUND Academy Instructorの武井でございます。
このFREUND Academyでは、製剤に関するベーシックな知識を全10章に分けてお送りします。
前回9章は、医薬品添加剤についてお伝えしました。今回は、口腔内崩壊錠について詳しくお伝えいたします。
皆さまにお役立て頂けるホワイトペーパーもございますので、今回も是非最後までお付き合いください。
まだご覧になっていない方は、
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1. 口腔内崩壊錠(OD錠)
1.1 OD錠の定義
1.2 OD錠技術の進化の変遷
2. OD錠をささえる技術
2.1 添加剤
2.2 苦味マスキング技術
2.3 インクジェット印刷
3. OD錠の評価
3.1 崩壊試験
3.2 味覚試験
1.1 OD錠の定義
第18改正日本薬局方の製剤総則に、口腔内崩壊錠(Orally Disintegrating Tablets)の項目がありますが、「(1)口腔内崩壊錠は口腔内で速やかに溶解または崩壊できる錠剤である。(2)本剤は、適切な崩壊性を有する。」としか記述されていません。
一般的なOD錠の必要条件は、
- (1)崩壊時間は30秒以内で、口腔内に長時間滞留しない。
- (2)錠剤強度は輸送中や保存中、包装形態からの取り出し、一包化に耐えうる強度を有する。
- (3)服用感に優れている。
などが挙げられます1)。
1.2 OD錠技術の進化の変遷1)
OD錠の進化を語る上で、第一世代から第六世代へと変遷したというとらえ方があります。OD錠の進化の変遷を、図1に示します。

第一世代は鋳型錠と呼ばれ、その代表例がZydis(ザイディス)です。Zydisとは、薬物が含まれる液をPTPポケットに充填し、乾燥して口腔内崩壊錠を製造する製剤技術の名称です。崩壊性に優れますが、強度不足が難点です。
第二世代は、いわゆる湿製錠です。湿潤した顆粒を圧縮成形し、乾燥して得られます。第一世代、第二世代とも、特殊設備が必要でした。
第三世代では、強力な崩壊剤(スーパー崩壊剤)を用いることで、特殊な設備を必要とせず、従来の製剤設備でOD錠を製造することが可能になりました。設備投資が不要なことから、OD錠が飛躍的に普及しました。
第四世代は外部滑沢法によるOD錠です。従来は打錠する前に薬物を含む粉末と滑沢剤を混合していましたが、その方法では錠剤内部に水難溶性の滑沢剤が存在し、錠剤内部への浸水が阻害されていました。外部滑沢法では、滑沢剤を打錠機の臼と杵の表面に塗布することで打錠可能なので、錠剤内部に滑沢剤が存在せず、錠剤内部への液の浸透が速やかになり、崩壊しやすくなりました。
第五世代は微粒子コーティング技術を採用したOD錠です。錠剤が口腔内で崩壊すると、薬物からの苦味が発現します。わずかな苦味でしたら、甘味剤や香料でマスキングできますが、強い苦味を有する薬物は、薬物を含有する微粒子表面をコーティングすることで、OD錠が可能になりました。
第六世代はインクジェット印刷されたOD錠(※)です。OD錠は崩壊を阻害しないように、表面をコーティングしない裸錠が多く、従来のスタンプ印刷(接触式)での対応ができませんでした。インクジェット印刷は錠剤に非接触で印刷できるので、裸錠の多いOD錠への印刷が可能です。
※参考文献1)より
2.1 添加剤2)
前述したように、OD錠が飛躍的に普及した要因に、従来の製剤設備での製造が可能になったことが挙げられます。そこには添加剤、とりわけ崩壊剤の貢献が大きく寄与しています。ここでは一般に使用されている添加剤について説明します。
(1)賦形剤
OD錠に適した賦形剤には、溶解性、成形性、吸湿安定性に優れていることが求められます。多用されているマンニトールは、溶解性、吸湿安定性に優れ、清涼感のある甘味や薬物との反応性の低さが評価されています。成形性はやや劣りますが、マンニトールの結晶を造粒することで、成形性の低さを克服した添加剤が市販されています。造粒マンニトールの一例として、グラニュトール(フロイント産業製)のラインナップを表1に示します。

(2)崩壊剤3)
代表的な2つの崩壊機構を図2に示します。
膨潤型崩壊は崩壊剤粒子が吸水により膨潤し、その膨潤力により錠剤を破壊します。この機構の崩壊剤には、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)、コーンスターチなどがあります。膨潤型の中でも崩壊力の強い崩壊剤は「スーパー崩壊剤」と呼ばれ、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルボキシメチルスターチナトリウムが該当します。
導水型崩壊は錠剤中にある細孔に水が浸入し、粒子間の結合力が低下し錠剤が崩壊します。この機構の崩壊剤には、結晶セルロース、カルメロースがあります。
(3)滑沢剤
ステアリン酸マグネシウムに代表される一般的な滑沢剤は疎水性なので、崩壊を遅くする傾向があります。この問題の解決策として、錠剤内部の滑沢剤をなくすことができる外部滑沢法が開発されました。外部滑沢法の採用により、内部混合法の1/10の滑沢剤量で、打錠障害の防止、錠剤の硬度向上という物理的な改善だけでなく、主薬の安定性向上という化学的な改善も実証されています4)。
また、親水性の滑沢剤としてショ糖脂肪酸エステルを採用することで、疎水性滑沢剤よりも崩壊が速くなります5)。
2.2 苦味マスキング技術6)
薬物を含む錠剤が口腔内で崩壊すると、当然ながら薬物の苦味や不快な味を感じます。したがって、OD錠では薬物の苦味マスキングが必要になります。ここでは、おもに採用されている4つの苦味マスキング技術を紹介します(図3)。
(1)矯味剤の添加
甘味剤やフレーバーを添加することで苦味を緩和することができます。矯味剤を薬物や他の添加剤とともに混合、造粒すればよく、特殊な工程や装置が不要なので、簡便な方法と言えます。反面、矯味剤の味より薬物の苦味が強烈な場合には、苦味マスキングにはなりません。
(2)薬物・添加剤複合体形成
薬物と添加剤の複合体を形成することで、苦味マスキングする技術です。口腔内で錠剤が崩壊した後も、薬物分子が添加剤と結合したまま溶解しないので、苦味を感じません。薬物と複合体を形成する添加剤には、シクロデキストリン、イオン性高分子、イオン交換樹脂などがあります。注意する事項として、複合体を形成したままでは薬物が体内に吸収されませんので、消化管内で薬物が乖離する必要があります。
(3)マトリックス型製剤
添加剤の中に薬物が包み込まれた構造(マトリックス型)の粒子を形成することで、口腔内での薬物の溶解を遅延することができます。マトリックス粒子の粒子径が大きいほど、薬物放出を遅延できますが、大きな粒子は口腔内でザラツキ感があり、歯の隙間に挟まるという問題が生じるので、約200 µm以下の粒子が望まれます。マトリックス型製剤では、粒子表面に露出した薬物もあり、その一部は速やかに放出されるので、強い苦味の薬物マスキングには難があります。
(4)膜制御型製剤
薬物を含有する核粒子の表面を添加剤で被覆(微粒子コーティング)することで、口腔内での薬物の溶解、放出を遅延する技術です7)。微粒子コーティングについては、フロイントアカデミー第1章「製剤とは?」のダウンロード資料「製剤工夫のための微粒子コーティング技術」に紹介されています8)。
2.3 インクジェット印刷
従来の錠剤印刷は接触式のオフセット印刷が用いられてきましたが、小さな衝撃でも粉立ちが発生することの多いOD錠への印刷は極めて困難でした。非接触式のインクジェット印刷装置が開発され、OD錠への印刷技術として採用されています9,10)。インクジェット印刷機の例として、「TABREX Rev.(タブレックス レボ、フロイント産業製)」の外観を図4に示します。TABREX Rev.は錠剤の移動にディスク搬送方式が使われています(図5)。また、インクジェットヘッドには取扱いの容易なカートリッジ方式が採用され、カートリッジの選択によりカラーバリエーションの変更も可能です。図6はTABREX Rev.による多色印刷の例です。
3.1 崩壊試験11~13)
第18改正日本薬局方(日局)には、OD錠の崩壊試験に関する記載はありません。そこで、日局の一般試験法にある崩壊試験法が採用されることがあります。図7に日局崩壊試験器の外観を示します。しかし、この試験法はビーカー内で多量の試験液を用いることから、口腔内での少量の唾液による崩壊挙動と同様とは限りません。そうしたことから、OD錠専用の崩壊試験器が市販されています。
市販されているOD錠専用崩壊試験器のトリコープテスター(岡田精工製、図8)は、2枚の金属メッシュの間に錠剤を挟み、錠剤の上から人工唾液を滴下し、錠剤が崩壊し上下のメッシュが接触することで終点を検知します。
OD-mate(樋口商会製、図9)は、金属メッシュの上に錠剤を置き、上部から荷重パーツを錠剤上部にセットします。これらを精製水10mlが入ったビーカー内に入れ、錠剤が崩壊し荷重パーツと金属メッシュが接触するまでの時間を計測します。
3.2 味覚試験14,15)
薬物の苦味やそのマスキング効果の評価に味認識装置(味センサー)が使われています。
人間が味を感じる組織は味蕾(みらい)と呼ばれ、その中にある味細胞が味覚の受容部です。味細胞で感じた味覚信号は、シナプスを通して大脳皮質に伝達され、そこで味が認識されます。味センサーでは味細胞に該当するのが電極(味センサー)で、電位変化はロボットアームを通してコンピューターに伝達され、そこで味が認識されます。両者の比較を表2に示します。味センサーとして、味認識装置TS-6000A(インテリジェントセンサーテクノロジー製、図10)が市販されています。
味センサーにより、それまで人間の官能試験に頼っていた味覚評価を、客観的に行うことが可能になりました。
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第10章の最終章は、口腔内崩壊錠についてご説明しました。
約2年半、長きに渡り FREUND Academy をご愛読くださり、誠にありがとうございました。
きっかけは、製剤業務に従事される新任研究者・技術者の皆さま、ならびにその上司の皆さまから寄せられる「改めて製剤についての基礎的な知識を学びたい」「OJTでの技術習得と並行して知識を学んで欲しい」というご要望にお応えし、製剤に関するベーシックな知識を学んでいただけるコンテンツとして始まりました。
医療や健康への関心は、これからも益々高まって行くでしょう。
製剤に関わる方々に、この FREUND Academy が広く読まれ、基盤として助けとなることを願っております。
参考文献
1)砂田久一:口腔内崩壊錠ハンドブック-製剤技術・装置・添加剤編-, PHARM TECH JAPAN,36,387(2020)
2)竹内洋文:口腔内崩壊錠ハンドブック-添加剤編-, PHARM TECH JAPAN,31,716(2015)
3)米持悦生:薬剤学,64,172(2004)
4)小根田好次ら:製剤機械技術研究会誌,18,295(2009)
5)柴田大地ら:薬剤学,62,133(2004)
6)吉田高之:口腔内崩壊錠ハンドブック, PHARM TECH JAPAN,28,365(2012)
7)鵜野澤一臣:口腔内崩壊錠ハンドブック-製剤技術・装置・添加剤編-, PHARM TECH JAPAN,36,424(2020)
8)フロイントアカデミー,第1章ダウンロード資料
9)今井聖ら:製剤機械技術学会誌,27,349(2018)
10)村上聡:口腔内崩壊錠ハンドブック-製剤技術・装置・添加剤編-, PHARM TECH JAPAN,36,441(2020)
11)内田信也ら:口腔内崩壊錠ハンドブック-製剤技術・装置・添加剤編-, PHARM TECH JAPAN,36,445(2020)
12)四方田千佳子:口腔内崩壊錠ハンドブック, PHARM TECH JAPAN,28,214(2012)
13)四方田千佳子:薬剤学,71,35(2011)
14)内田亨弘:薬剤学,68,220(2008)
15)竹内淑子:口腔内崩壊錠ハンドブック, PHARM TECH JAPAN,28,403(2012)
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